十九
 若し一人、苦を捨て、生死を出ずるを得れば、是れを真に仏恩を報ずと名づく。何を以っての故に、諸仏世に出でて種々の方便をもて衆生勧化したまうは、直に悪を制し福を修して人天の楽を受けしめんと欲するにはあらざるなり。人天の楽は猶電光の如し。須臾に即ち捨て、還りて三悪に入りて長時に苦を受く。この因縁のためにただ勧めて、即ち浄土に生ぜんことを求めて無上菩提に向かわしめたもう。是の故に今時の有縁、相勧めて浄土に生ぜんと誓うは、即ち諸仏の本願の意に称うなり。      (善導大師『定善義』)