仏教的ものの見方-仏教の原点を探る-森章司著 国書刊行会

仏教的ものの見方・生き方 いかにして「あるがまま」を「あるがまま」に見られるようになるか(4)
(3の続き)それでは「戒」とは何であろうか。表面的に言えば、戒めを守って生活を安定させ整えることであるが、より深い意味で言えば、正しい人生観・世界観を確立して生きるということである。『大般泥オン(三水に亘)経』(だいはつないおんきょう)巻二が「持戒とは自身に真実の法を摂持することである」と言い、『法華経』(巻四)が、「この経を持することは難しい、もし暫くでも持する者は、これを持戒と名づける」と言うように、仏教の教えを保つこと、あるいは『法華経』を信じる者は『法華経』の教えに従って生きぬくことが「戒」となる。その最も端的に表わされたものが「三帰戒」であって、仏・法・僧の三宝に帰依することが「戒」とされる。仏教徒として自覚的に生きることが「戒」なのである。
 しかし、これでは漠然としている。そこで、誰でも守らなければならない生活規範として、「五戒」とか「十戒」が示された。
 「五戒」は、(1)生き物を殺さない、(2)盗みをしない、(3)邪な性行為をしない、(4)嘘を言わない、(5)飲酒しない、の五つを守ること、「十戒」は、、(1)生き物を殺さない、(2)盗みをしない、(3)邪な性行為をしない、(4)嘘を言わない、の四つに、(5)二枚舌を使って他人の仲を裂くようなことをしない、(6)他人の悪口を言わない、(7)うわべだけの飾った言葉を使わない、(8)貪らない、(9)怒らない、(10)邪見を離れる、の六つを加えて十項目にしたものである。
 しかし、これは日常的な最低限の目標であるにすぎない。(5に続く)

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この本は「仏教的ものの見方」とはどのようなものの見方であり、それによって人間や世界がどのようなものとして見られたのか、人はどのように生きなければならないとしたのか、すなわち仏教の原点には何があったのかを探ろうとしたもので、「仏教学概論」の副読本として書かれたものです。その結章を10回に渡ってそのまま引用しています。