伊藤比呂美著「とげ抜き 新巣鴨 地蔵縁起」講談社1785円
 『「群像」連載時より大反響!話題の〈長篇詩〉遂に刊行』としか情報がなく、前書きもあとがきもない、予備知識がないとなかなかその中に入れない自分は、本は買ったけれどもその体裁の素っ気無さで喰わず嫌いをしていました。(インターネットだから買ってしまったが本屋で手にしたら絶対に買っていなかったであろう)
 忘年会の行き帰りはバスで約1時間と言うことで、何か本でも持っていこうと手に取ったのがたまたま「とげ抜き 新巣鴨 地蔵縁起」。縁ですね。改めて読み始めて見ると面白い。バスの道中で1/3くらい一気に読んでしまいました。
 家族の中の苦労をこのように具体的に書いたものを読んで初めて大変だなぁと実感できる。でも持ち前のユーモアと明るさで、悲壮感はないし、むしろさっぱりしている。読んでいると苦労を共体験しているような錯覚も覚える。何となく、明日はわが身的なそんな苦も自然に受け入れられそうな錯覚である。人間は経験が大事だというけれども、苦労はしなければしないほうが幸せである。しかし、その苦労が人生の晩年にきた時には経験がない分だけ悲惨である。そんな苦労の一部を見せて経験させてもらえたようなことで、わずかな抵抗力を頂いた気分になるちょっと変わった本でありました。ご縁に感謝。
 主な著書に「伊藤比呂美詩集」「良いおっぱい悪いおっぱい」「伊藤ふきげん製作所」「日本の霊異ナ話」「コヨーテ・ソング」など