(その3)
 六月二十日酉の刻(午後5〜7時)一人の禅尼、年老いた上品な尼様が訪ねて来た。
 「法如様、あなたが生身の阿弥陀如来を見奉らんと願われる志は誠に尊いものでございます、私がそのお手伝いを申しあげます。先ずその為に、大和、河内、近江の三国より、蓮の茎を百駄集めてください。」
 言われた法如は藁にもすがる思いで、早速父の豊成卿を通じ帝に奏問し、勅許を得て三日の間に百駄の蓮の茎を調えました。
 法如は禅尼の教えに従い、境内の隅に井戸を堀り、禅尼と共に集められた蓮の茎より意図を採り、井戸の水につけて洗うと不思議にも糸は自ら五色に染まりました。
 六月二十三日の夕刻、天女と紛(まが)うばかりの年の頃24・5なる美女が、いずくともなく現われ、禅尼と共に九尺四方のお堂に籠もり、染め上がった糸を以って織りものを始めました。
 亥子丑の三時(午後9〜午前3時)に一丈五尺四方の大曼荼羅を織り上げました。
 禅尼はこれを法如に授け、
 「これは仏説観無量寿経を解りやすく絵にしたものです。どうぞ仏の教えはもちろん、文字一字だに知らぬ人たちの為に、仏の道と功徳を教えて上げてください。」
 と絵の隅々まで残らず説明しました。
 法如は驚きと感嘆に身を打ち振るわしてこれを受け取り、世の人たちの為に説き教えることを堅く心に誓いました。