弘津正二は、カントの遺した最期の言葉「Es ist gut(これでよろしい)」を好んでいた。
京大生だった彼は、戦争中、連絡船の沈没によって短い生涯を終えた。
彼の乗った貨客船氣比丸は、昭和16年11月5日午後10時、
城津の沖合で浮遊機雷に触雷し、沈没した。
その時にとった彼の態度は皆の胸を打った。
彼はできるだけの人を救命ボートに移し、
最後に沈み行く船の上でにっこり手を振って波間に消えて行ったという。
彼は、沈没する船からの脱出を競わなかった。
隣にいた左官屋から「早く乗りなさい」と声をかけられても
「どうぞお先に」と譲り、悠然とタバコをくゆらしていた。
彼は、「天にあっては輝く星、わが心の中には道徳律」というカントの教えを実行したのだ。
  
 
現代、このような行動がとれる人が何人いるだろうか?
五濁
①劫濁(こうじょく)。時代の汚れ。飢饉や疫病、戦争などの社会悪が増大すること。 
②見濁(けんじょく)。思想の乱れ。邪悪な思想、見解がはびこること。
③煩悩濁(ぼんのうじょく)。貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)等の煩悩が盛んになること。
衆生濁(しゅじょうじょく)。衆生の資質が低下し、十悪をほしいままにすること。
⑤命濁(みょうじょく)。衆生の寿命が次第に短くなること。
は、いよいよ混沌としてきた。これも当たり前のことだと納得できる。
現代人は、清く正しいものの犠牲の上に、ずる賢く生き残ってきたDNAが代々引き継がれているのである。善人にはこの世は生きづらい。お先に失礼と逝ってしまう。
現代の10年連続自殺3万人以上と言う事実は、五濁を加速させているのではないかと本当に思う。