当麻曼荼羅

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当麻曼荼羅略讃巻上』 此まんだら亦は浄土観経の変相ともいう

  立譽大基上人説  齊譽大周 垂講 門人徹道 重述

 いま、この図を分けて二つとす。内陣と下陣なり。真ん中の一仕切りを内陣とし、右辺と左辺と下辺との三仕切りを下陣とす。内陣は極楽の相なり。下陣は娑婆の有り様なり。また、この下陣三仕切りの中右辺を分けて五段とす。この五段は下よりして上に至ると知るべし。

 初めの大段を禁父縁と名づく。子として父を縛(いまし)めし縁起なればなり。また、この中を分けて四段とす。

 初めの段を現通勧悪(げんつうかんあく)と名づく。まず、この因縁のあらましを申すべし。

 昔、王舎大城の阿闍世(あじゃせ)太子と申せしは、頻婆沙羅(びんばしゃら)王の御子なり。御母を韋提希(いだいけ)夫人と申せしとぞ時に釈尊の御弟子の中に調達と申せし大悪僧あり。世に聞こえたる提婆(だいば)これなり。この僧、かの太子を帰服せしめて大いなる利養を求めんが為に、ある時神通力をもって太子の御殿の前の虚空に住して大神変を現し、身の上より火を出し、身の下には水を出し、あるいはこれを左にし右にし、あるいは大身あるいは小身を現し、あるいは坐しあるいは臥しなどしてこれを太子に見せしむるに、太子奇異の思いをなし、即ち左右の人に問うて曰く、「これはこれ何人ぞ」左右答えて申さく「これはこれ尊者提婆と申す人なり」と。

 『当麻曼荼羅略讃巻上』第2回目
 太子おおいに歓びて即ち手を挙げて呼びて曰く「尊者何故にこの所へ下り来たらざる」と。ここに於いて提婆忽ち化して嬰兒(ように)となり直に下りて太子の膝に上らんとす。太子これを抱いて口を鳴らし寵愛して彼の口中に唾するに嬰兒即ちそれを舐め、しばらくしてまた本身に復せり。太子は提婆のいろいろの不思議を見て、これを敬重すること甚だし。提婆よくよくその意(こころ)を証知して御父大王の御信心深く釈尊に御帰依なさるる事ども物語する中、日々に五百種の品数一色一車都合五百車ずつこれを佛と佛の弟子衆に供養せらるる有り様を、つぶさに述べければ、太子これを聞いて提婆に向かいて申さく、「朕(われ)とても尊者の弟子たるからは自今は父王の供養の通り、色別五百車をもって尊者と衆僧とを供養すべし」と。提婆このことを聞いておおいにその志を讃嘆す。これより以後提婆おおいに彼の供養を得て、次第に高慢の心を起こせり。

 『当麻曼荼羅略讃巻上』第3回目
ある時提婆参殿して太子にまみゆ。
太子つつしんで問うて曰く「尊者が今日の顔色甚だ憔悴していぜんと同じからざるは何ぞや」
提婆曰く「我が今憔悴せしは正しく太子の御為を存ぜしゆえなり」
太子曰く「我が為とは何事ぞや」
提婆曰く「太子知るや否や。世尊釈迦佛年老いて最早強化に耐えられず、この故に我釈迦を除いて佛とならんと欲す。太子の御父も亦御年よられたり。よろしくこれを除きて太子自ら正位に坐したもうべし。新王と新佛と相依りて国を治め民を化せば、あに楽しからざらんや」と。
 太子これを聞きて、おおいに怒りて曰く「我に父王を除きて正位に坐せよとは何事ぞ。重ねて悪逆の話をなすこと無かれ」と。
 提婆謹みて申さく。「太子かならず瞋りたまうこと莫れ。父王は君の御身に於いて全く恩もなく徳もなし。只御恨みのみあり。そのわけは、初め父王に子なし。所々の神に祈り求むるについに得ず。時に相師(そうみ)あり。王に奏聞して曰く『臣(わたくし)知る。山中に一人の仙人あり。久からずして死してのち必ず王の子となりて生まるべし』と。王これを聞いておおいに喜び、その時節を相師に問わしむ。相師曰く『更に三年を経て仙人命終すべし』と。王謂えらく『我、年寄れども世継ぎ無し。今より三年を待って死せば何の益かあらん。然らば、使いを山中に遣わして、仙人に頼むべし』と。

 『当麻曼荼羅略讃巻上』第4回目
 ここにおいて使者に命じて仙人に言わしめて曰く「大王年老ゆれども子なし。血筋まさに絶えなん」と。すなわち相師ありてよく大仙を見知りて申さく「久しからずして命を捨てて王の子となりて再び生まれたまわん」と。これによりて大王わざわざ使者を下さる。「請い願わくは大仙早く赴(たもむけ)て王子となりて生まれ給え」と。使者大王の教えを受けて仙人のところに至りつぶさに願の因縁を陳べけるに仙人応えて申さく「我、更に三年を経て命終すべし。しかるに今、王の為に早く赴けとは是事不可」と謂うて勅命に従わず。使者城に帰りて仙の意(こころ)をつぶさに大王に奏聞す。王これを聞きて申さく「我は是一国の主なり。国中のあらゆる人物は皆これ天より我に与えられしものなり。しかれども彼は俗を逃れたる人なれば、今ことさらに礼儀をもって頼み求むるに、これを承引せざるは何ぞや」ここをもって大王重ねて使者に申し付けて曰く「汝再び仙人のところに往きて幾重にも頼むべし。頼めども、もし聞かずんば即ち彼を殺すべし。しからば定めて我が子となりてここに生まれ来たらん」と。