絵伝は「仏教説話画」と呼ばれる場合が多い。それには説話の内容を一般大衆に説き聞かせる「絵解き」が必ず付随していた。絵伝はまさに庶民仏教そのものを象徴していたのである。
日本の仏教絵伝は実に多種多様で、一見複雑難解な感を与えるが、およそ次のように大別して把握しておくのが便利であろう。
(1)経説絵伝…経典の内容を絵画化したもの『観無量寿経』『二河白道図』『法華経』『華厳経』『金光明最勝王経』など
(2)仏伝絵伝…釈尊の伝記を絵で表したもの『釈迦八相成道図』『涅槃図』など
(3)六道(りくどう)絵伝…六道輪廻の世界を絵画表現したもの『往生要集絵伝』『十界図』『十王図』『地獄絵図』『弥陀来迎図』など
(4)寺社絵伝…寺院や神社の草創由来や本尊の霊験利益縁起を絵伝化したもの『善光寺如来絵伝』『熊野那智参詣曼荼羅』他各寺々の縁起絵伝など
(5)高僧絵伝…聖徳太子をはじめ法然親鸞蓮如一遍上人などの一代記を絵で表したもの
これらの絵伝はすべて民衆教化のために作られ、同時に喜捨を仰ぐ勧進の用具でもあった。その教化の方法は絵解き説法であったことが想像できる。また、仏教絵伝には当麻曼荼羅、涅槃図、親鸞絵伝など広範囲に普及したものほどワンパターン化の傾向が著しかった。ともあれ、仏教絵伝こそは、大衆と共に歩みを運んできた寺院に遺る貴重な文化遺産であり、今後も大切に保存し、かつ利用すべき宝物であることを強調しておく。